寺ブログ by副住職
魔所
前回の水死霊の記事は、先日御礼参りの話をたまたま記しただけであったが、その日、皆さんもご存じの通り水難事故のニュースが相次いだ。
アメリカではタイタニックを観光の潜水艇不明、日本では沖縄でスキューバダイビングの7人が一時行方不明と。
沖縄の事故は幸いに全員無事で済んだとのことだったが、続けて次のニュースは「ヘリ墜落殉死自衛官の合同葬儀が行われた」。何とも言われぬものを感じたのは私だけではあるまい。
そう、陸自ヘリが沖縄海上で墜落して10人死亡4人は未だ見つからず、の件だ。
スキューバの一行は気にもかけなかっただろうが、沖縄の海に10人が散って発見すらされぬ隊員がいる、その葬儀の日に沖縄の海でダイビングに興じて遭難するという・・
タイタニック遊覧事故。米海軍が実は連絡遮断直後に爆発音を感知していた、と悲劇で幕が下りた。深海4000mに眠るその船を見に行くツアーがあるとは驚いたが・・
報道では、以前に安全性に疑問を呈した従業員がクビになった、からの、ルール違反をした/やってはならぬカーボンで製造した/ルール違反をする者こそ歴史に名が残る云々と、CEO自ら神経を疑う発言をしているようで・・寸部の狂いも命取りになるという観点自体を欠いた潜水艇であったかもしれぬ。
それはそうとして、私的には「タイタニックを観光ツアー」という神経自体が理解できない。
そこは、自分が死ぬことになるなど微塵も思いもしなかったセレブら1500人が、怨嗟のなかで死んでいった墓場だ。死ぬ覚悟が出来ていた軍人軍艦どころではない「恨念」が強く残っているであろう「魔所」だ。
たとえ慰霊や調査という目的であっても、リスクの方が遥かに大きいと思う。それを【観光】とは・・
海の藻屑と消えた1500人のセレブの残骸を、3500万円かけて観光に行ったセレブの果て。潜水艇操縦士の妻は、タイタニック号乗客で最後まで船に残り海に沈み、映画タイタニックの中でもモデルになった犠牲者の夫妻の子孫であったという。これがただの偶然、と思う人など果たしてどれ程いるのだろうか・・
爆縮というそうだ。凄まじい水圧で一瞬に潰れてしまうらしい。水死は断末魔の苦しみが激しいという。一瞬死ならその苦は無いかもしれぬが、自身が死んだ認識も無いのではないか。あまりに深く暗すぎる深海で肉体を喪ったその魂は、どこへ行くのだろうか・・
とっくに爆縮していた時間以降に、30分おきにキャッチしたという「船体を叩くような音」とは何だったのだろうか・・
【魔所】は存在する。面白半分に踏み込んではならぬ場所はある。アナタの知らない世界のような番組が姿を消し、どこでもスマホが繋がる。日常からも畏れが消えたのでしょうかね。聖域やいわくつきの場所、また大勢が失われた地にも平気で土足で踏み込んでも、何とも思わないのかも。
ですが、こっちを見ている「向こう」は存在する。生き物にはテリトリーがある。見えないだけで神にも鬼霊にも。そこを忘れちゃいけない。
ついでにかつては【山中他界/海中他界】という言葉があった。山や海は【向こう側】が優勢な領域だ。そして前回ブログに記した通り。ことに、水に業苦を受けし霊魂など軽んじては危い。怖い話に触れたことがある皆さんなら、溺れかけた人の足に手形がついていた話など、幾度となく耳にされているはずだ。いくら大富豪だろうと冒険家だろうと、向こうには関係ない。
【触らぬ神に祟りなし】人として最低限の敬虔さは持っておきたいものだ、と思わされるニュースでした。
ついでに、潜水艇の名「タイタン」は、ギリシャ神話で「地底に封じられた巨人」のこととか云々・・この事故はどこまでも救いがなかった、魅入られてしまっていたのか、と世界中がため息をつくしかないのかもです・・